今年のM-1も終わった。


 賛否両論あるらしいが、僕はマヂカルラブリーが好きになった。M-1の決勝であのネタをやる暴れっぷりに、芸人の意地を見た気がした。

 ただ、ずっと引っかかっていることがある。


「電車ネタのオチ、なんで中央線・お茶の水駅なんだろう」


 こくろーは、普段は自分の壊れかけの愛車で移動しているので、東京に住んでいる今でも電車に疎い。そもそも、出身が長崎県だし、大学も佐賀県だし、人生で電車に定期的に乗っていた期間が一度もない。

 これはマヂカルラブリーのネタだけでなく、芸人、ひいてはテレビを見るときに27年間ずっっっと思ってきたことなのだが、


 テレビというのは、ほとほと、全てが東京人の内輪ネタで構成されている。


 朝の情報番組は、原宿で話題のスイーツを紹介し、昼の情報番組は、表参道で話題のエステを紹介し、夜は芸人が「この間赤坂の高級料亭で~」とエピソードトークを始める。深夜にはタモリが中野のディープなスポットを案内する。


 言わせてくれ。

 どこだそれ。


 原宿が若者の街であること、表参道がオシャレなところであること、赤坂には超高い飯屋があること。中野がちょっと都心から外れていること。これらは全て、改めて説明する必要のない全員が知っているイメージとして話始められる。マヂカルラブリーのネタも、「中央線というのは東京・お茶の水・新宿・中野を通る、皆が良く使う東京の路線であり、電車にはつり革があり、電車に乗る人は基本立っていて、つり革に つかまらない人がたまにいる」ことは全員が共有しているイメージとしてネタが始まる。


 流石に27年も生きていてテレビを見ていれば、百歩譲って、新宿に人がいっぱいいることや、銀座に高級店があることくらいは分かる。ただ、東京のそれ以外の街のイメージは分かっているものとして話始められても、こちとら知らんがなって話である。銀座とかも百歩譲ってるけどね。そんなことが分かってる前提なら、君たち佐世保のイメージ言ってみてよ。佐世保バーガー? うん。食べるけど あれ高いから地元の人あんまり食べないよ。ハウステンボス? あれ佐世保市中心からだいぶ遠いから気軽には行けないよ。長崎市? ありゃあもう佐世保から遠すぎて文化的交流無いよ。電車だって、俺の知っている電車は、そもそも電車なんて一路線しかないんだから、乗るのが何線か なんて話は一切しないし、電車は基本みんな座るもんだろう。どこに立つんだよ。椅子にか? 俺の青春は戸尾山祗循環だ。

 そして、どんなに興味があるスポットを紹介されたって、そこには行けないのだ。だって、全部東京の店なんだもん。テレビに出てくる店には、基本的に旅行じゃないと行けない。


 地方民が東京のことを知らないとテレビの話についていけず、東京人が地方のことは知らないことは当然とされている。地方の風景を見て、ナニコレ、とか、珍百景ですねぇーとか言い始める。失礼じゃないか? 普通に。


 それでも、悲しいかな、地方になればなるほど娯楽が少なく、テレビの影響力が絶大なのである。そりゃあ、地方に1個くらいテレビ局があったりするけど、ゴールデンで流れている番組は全て東京の都心にあるキー局で東京人が作った番組である。そのゴールデン番組に、「皆さんがあまり行けない地方ですよーー!」と我が町が多少バカにされ紹介されたりしても、地方民は大喜びである。画面の端にチラっと映ろうもんなら、その話一本で3年はヒーローになれる。


 日本は民主主義の国だ。例外はあれ、基本的には多数決が尊重される国だ。日本の人口の10%近くが住む東京の情報が、総生産額91兆円で日本全体の経済の18.4%を担う東京の情報が、何よりも尊重されるのだ。そして、地方はテレビなどの文化を通じて東京の後ろをついていくしかないのだ。俺らの地元の情報なんて耳に入れる価値はないのだ。ハウステンボスの位置覚えた? 佐世保市街から1時間かかると思っていいよ。長崎市からも遠いからね。まぁ、来ないだろうけどね。みんな。


 俺らは、みんな東京出身じゃないからこそ、東京ヒヤリハットと名乗っていきたい。こくろーは去年まで大田区に住んでいて、今は港区に住んでいる。この話を地元の友達に自慢したら、よくわからない顔をされた。東京の友達には「すげーじゃん!」と言ってもらえた。都民にとっては港区へ引っ越したというのは栄転感があるが、地方民からすれば、栃木あたりまでは東京なので、23区内というだけで価値がカンストしている。区から区への引っ越しはピンとこないのだ。


 最近、以前よりだいぶ、テレビがすっきり見れる。なんでかって? 自分に関係のある話が増えたからだ。朝の番組に出てきたスイーツ屋さんも、最近話題のアトラクションも、中野のディープな店も、ぜーんぶ自宅から行ける距離にある。芸人のボケも以前よりスッっと理解できる。そりゃあ、六本木でアイクぬわらが指笛でタクシー呼んでたらオモロいわ。うん。そういう街だからね。なんでかって? まぁ、来たらわかるんじゃないかな。


 そんなこんなで、東京が楽しくてたまらない。


 東京への恨みは心にしっかり持ったまま、押しも押されもせぬ東京人になりたい。

 マヂカルラブリーも、二人とも東京出身じゃないしね。